第9章 ミント-before-
「それでは回します!よういっ…」
撮影が始まった。
ほんとに短いシーンだったけど、カットは細かく分かれてて。
高架下の薄暗い中、撮影は進んでいった。
「では次のカットは…」
助監さんが俺と大野さんの所まで来て説明してくれる。
「まず、大野さんのアップを撮って、それから俺のアップね」
「はい。大野さんのアップは3カット。二宮さんは2カットいきますので」
「はい。了解」
助監さんも山田太郎のときに一緒に仕事をしてた人だから、気心が知れてて。
ちょっとじゃれたりしながらからかってたら、大野さんは無言で離れていった。
「…大野さん?」
返事もしない。
「あー…役、はいってるんすかね…」
「ん。あの人たまにぼーっとするからさ。フォロー頼むね」
「いえいえ…じゃあ、そろそろ戻りますね」
助監さんが戻っていって、俺と大野さんはぽつんと立ち位置に取り残された。
「ね…大野さん?」
やっぱり、返事もしてくれない…
「俺のこと、嫌いなの…?」
「…えっ?」
思わず…ほんとに思わず、心の声が漏れ出て…
小さな声だったのに、大野さんはびっくりしてこちらを見た。
その時、メイクさんが来て…
俺達の会話は中断してしまった。