第8章 ディープパープル
まるで恋人を誘うような甘い声だった。
智くんは、いつもと変わらないけど…
潤の様子が尋常じゃなかった。
気になってずっと二人の後ろを歩いていたけど、密着したまま二人は歩いてて…
まるで。
恋人同士…
「だから…行っていいでしょ?」
「だめだってば」
「絶対行くから」
まだ智くんの家に行く行かないの話をしてる。
ふいに智くんは俺の方を見た。
「…今日は、翔ちゃんと約束してるからだめ」
「えっ…」
約束なんてしてない。
でも、智くんは俺を見て微笑んでる。
立ち止まった潤は、ぶすっとして俺の顔を見た。
「…そんな話してなかったじゃん」
「え…あ、いや…」
「だって、約束してたよね?翔ちゃん」
じっと俺を見る目には、表情がなかった。
助けてほしいのかとも思ったけど、でもなんの情報もその目にはなかった。
だからどうしてほしいのか、わからなくて…
「ほら…約束なんかしてないんでしょ?」
「えっ…」
「潤…」
「行こ?」
潤は俺から隠すように智くんの肩に手を回すと、早足で歩き始めた。
智くんは俺の顔を見ていたけど、潤に引きずられるようにあるき出した。
目を逸らす、その瞬間
智くんは、見たこともない顔で笑った