第5章 こひくれない
背中の反る、曲線が好き。
俺の下になってる時の、苦悶する表情が好き。
眉間のシワさえも愛おしい。
鮮血の紅さが好き。
「ねえ…最近、翔さん生傷が絶えないよね…?」
「そう…?」
「指なんか絆創膏だらけだしさ…なんかやってんのかな?」
ニノが心配そうに翔くんを見つめてる。
「料理でも覚えようとしてんじゃない?」
「ああ…でも、あんな不器用なのに今更料理…?」
「さあね…俺わかんない…」
読んでいる文庫本に目を戻すと、ページの端に朱茶色い染み。
そっと手でそれをなぞる。
この本、この前翔くんに貸したから血が付いたんだ。
「…相変わらず…潤くんは翔さんにドライなんだねえ…」
「そうか?そんなことないよ」
鏡前のミラー越しに翔くんが俺とニノを見つめる。
視姦するかのような視線に、身体が震えるほどの歓喜。
もっと、縛って。
俺を縛って。
「潤くん?」
「え?」
「どうしたんです?顔が赤い。熱でもあるの?」
「そんなこと…」
隣りに座るニノの手が俺の額に伸びた。
「熱はないみたい」
「そう?ありがとう…」
視線が突き刺さる。
もっと…刺して。
俺をもっと貫いて。
翔くん…
俺達は一緒だよ。
痛みだけで繋がっている訳じゃないけど…
痛みから始まったこの関係は、永遠にするには痛みを横たわらせないといけないんだ。
わかってるよ。
だってあなたは俺
俺はあなた
あなたが自分を許せないことも。
俺の背負った罪を許すつもりもないことも。
全部わかってる。
ずっとずっと、一緒だよ
ずっとずっと、俺が痛めつけてあげる
だからあなたも…
俺を痛めつけて
いつでもあなたを感じたい
それが痛みでも
たとえ痛みでも
【END】