第5章 こひくれない
「翔くん…俺…」
そのまま、俺に向かって歩いてきた。
「俺…翔くんに言わなきゃいけないことがある…」
ごしっと袖で顔をこすると、また涙があふれる。
「俺、彼女に…」
全部言わせないで腕を取って抱き寄せた。
「言わないでいい」
彼女が事務所を辞めた理由…
なんとなく、事情はわかっていた。
長期の休みが必要だったんだ――
誰にも知られることなく…一人で旅立てる時間が…
必要だったんだ
腕の中で、潤は震えた。
「…ごめん…」
「翔くん…」
「わかってたけど抑えられなかった…本当にごめん…」
「謝らないで…」
潤の腕も俺の背中に回ってきて、俺を抱きしめた。
「こうやって潤を抱きしめることができることが信じられない…」
「翔くん…」
「潤…好きだ…」
身体を離すと、潤の頬を手で包んだ。
「俺について来てくれる?」
「しょうくんっ…」
大きな目を潤ませて、まっすぐに俺を見る潤の泣き顔…
くしゃっと歪んだかと思うと、ぽろぽろ大粒の涙を零した。
「いいの…?俺なんかでいいの…?」
「潤がいい…潤じゃないと、だめだ」
「翔くんっ…」
昔から泣き虫で…
でも負けん気が強いから、必死にいつも我慢して。
だけど俺と二人きりになると、いつも我慢できなくて泣き出して…
納得のいくまで話を聞いて、潤が間違ってたら説教までして。
そうやって泣き止むまでいつも付き合ったなぁ…
「俺もっ…翔くんじゃないとダメだよおっ…」