第5章 こひくれない
「な…に…?」
「だから…彼女は、ある人の代わり。それは…彼女もわかってる」
「何言ってんだよ…」
「…俺、嫌じゃなかった」
「え?」
「昨日、あんなことされても翔くんを嫌いになれなかった。むしろ…嬉しいとすら思った」
透き通るような笑みを見せると、潤は俺の頬に触れた。
「俺はね。ずっと心に誰か居たんだ。小さな頃からずっとね。だけど、それが誰なのかわからなかったし、その人に対して抱いてる感情が何なのかもわかってなかった」
彼女はつきあい始めにそれに気づいたそうだ。
潤の心は自分にはない。
だけど、それでいいと。
「ずっと蓋をしていたんだ。こんな感情に気づいたら、俺はその人の側に居られなかったからね」
ゆっくり立ち上がると俺を腕に抱きとめた。
「それが、わかった。…その人は、翔くんだよ」
頭が、混乱して…
すぐに何かを言おうとしたけど、言えなかった。
「好き…なんだと思う」
「え…?」
「俺、翔くんのことが…ずっと好きなんだと思う」
「”なんだと思う”って…確信持てないのかよ…」
「だって…俺たち男同士だよ…?そんな簡単に、確信持てると思う?」
「いや、俺は…」
俺は、持てる。
っていうか、そのことばっかり考えてたっつーの。