第5章 こひくれない
「ちがう…」
違うんだよ…そうじゃない…
でも怖くて言えない。
なんであんなことをしたのか。
その理由は、言えなかった。
「…じゃあ、なんであんなことしたの?」
潤がストレートに物を問うとき…
それは、答えがわかりきっているとき。
何かの確信を持って潤はここにいる。
「憎いわけじゃないんだ…」
「でもあの時…翔くん怒ってたよね?」
「怒ってた…まあ、怒ってたのかもしれないな…」
必死になって彼女を庇おうとする姿。
それに苛立ちを覚えなかったわけじゃない。
でも違うんだ。
そんなことじゃない…
そんなことじゃ…
「…お前は怒ってないの?」
「え?」
「あんなことした俺を…怒ってるんじゃないの?」
「…さあ…」
潤もテーブルに手を伸ばして、水の入った俺のコップに触れた。
指で水の雫を掬うと、テーブルにそれを落とした。
「よく、わからない…」
少しの間、沈黙が落ちた。
潤は濡れたその指をテーブルに這わせると、水分で線を描いた。
「怒っているのかもしれないけど…それだけじゃなくて…」
その指で今度は円を描いた。
「それが何かわからないから…確かめに来た」
きゅっと線が結ばれて円が描かれた。