第5章 こひくれない
「飯でもいくか」
「えっ?」
「んだよ。不満?」
「い、いや…じゃ、俺んちこない?」
「は?」
「俺が作るから…」
犬みてえな顔で見るなよ…
「わかった…」
近くのコインパーキングに停めた車で潤の家に向かった。
家に遊びに行くなんて、本当に久しぶりのことで。
マンションの地下駐車場の客用スペースに車を停めるまで無言だった。
地下のエントランスに1人だけコンシェルジュが居て、微笑んでる。
その横を通り過ぎてエレベーターホールに出ると、潤が俺の顔を覗き込んできた。
「パスタ作るね」
「…ああ」
「ごめんね?なんか無理やり…」
「いや…別にいいけどよ」
その時エレベーターの扉が開いた。
二人で乗り込んで、潤は最上階のボタンを押した。
「なんでこんなことしたんだよ…」
潤はそれには答えなかった。
部屋に入ると、リビングに通された。
「急いで作るから、待っててね」
テレビのリモコンを渡されて1人残された。
居心地のいい部屋だけど、なんかいたたまれなかった。
チャンネルをザッピングしても、内容なんて頭に入ってこない。
ぼーっと画面を見つめながら、さっき見た芝居のことを考えていた。