第5章 こひくれない
「どういうつもりなんだよ」
「ごめん…こうしたら来てくれるかなって思って…」
「は?もっと普通に誘えないの?」
「だって…普通に誘ったら、来てくれないじゃん」
そういい切ってまた潤は俺を見た。
でもまたすぐに吹き出した。
「オイ…」
「ごっ…ごめっ…だって…その格好…」
ああ。悪いか。
変装したんだよっ!
しょうがないから帽子をむしり取って、眼鏡も取った。
付け髭も取ったら、やっと潤は笑いが止んだ。
「ごめん…」
「誰からかわからねえから、用心してきたんだろ?」
「ん…わかってる。翔くんなら、きっと好奇心に負けてくるだろうと思ってこんなことしちゃったけど…まさか変装してくるとは思わなかったから…」
そう言ってまた吹き出した瞬間、開演のブザーが鳴った。
椿姫…
激しい恋に身を焦がし、最後には病でこの世を去っていく。
不幸に見えたヴィオレッタだが、最期に愛おしい人に看取られていく。
恋に身を焦がしその身を焼き尽くした彼女は、死んでもなお彼を愛し続けるのだろう。
途中休憩を挟んで全幕が終わった頃には、とっぷりと日も暮れていた。
「翔くん、あの…」
潤がおずおずと俺を見た。