第5章 こひくれない
電話を切って改めて封筒を見た。
メッセージも何も入っていない。
気味が悪くて、捨てようかとも思ったけど…
まだ休みがあって暇だった。
ただ、こんなの出向いて写真でも撮られた日にゃ目も当てられないから、変装していくことにした。
開演時間ギリギリに行って席を確認して、誰かわからなかったらそのまま帰ろう。
次の日、張り切って変装した俺は劇場に赴いた。
新春を祝う飾りの中、劇場に入ると華やかな空気に包まれた。
着物を着た女性があちこちに居て、歓談しているのを尻目にそっと座席に向かった。
まだ早かったのか、隣の座席には誰もいない。
ロビーに戻って、ドリンクを頼んで暫く寛ぐ。
この分だと、開演してもこないかもな…
せっかく好奇心に駆られて来てみたけど。
こんな手の込んだ事をするくせに、ビビって姿を見せないかもな。
ゆっくりと飲み終わると、開演の5分前。
また人に紛れて座席に行ってみた。
「あ…」
そこに居たのは潤だった。
ふっと俺を見た潤は吹き出しそうになった。
口を押さえて前かがみで笑いを堪えてる。
「…お前なあ…」
「ぶっ…くく…ごめん…座って?」
どすっと隣に腰掛けると、潤は口を押さえていた手を取った。