第3章 萌葱-moegi- scene2
それからニノと何を喋ったのか思い出せない。
雅紀のマンションに鍵を使って入ったら、電気をつけることも忘れて突っ立ってた。
あのことは…雅紀と付き合う前に、自分でちゃんと昇華したつもりだった。
だけど余計な波風を立てたくなかったから、皆には隠しておこうって。
雅紀とそう話し合ったんだ。
だから必死に隠してきたのに…
そう、だよね…
雅紀って、ダダ漏れだったもんね。
こんな鈍い俺がわかるくらいだったんだもん。
あんなに俺のこと好きで…好きで居てくれたから。
だから俺も…
「智?」
急にリビングが明るくなった。
「なにしてんの?電気もつけないで…」
「あ…おかえり…雅紀…」
リビングの入り口に雅紀が立ってた。
その姿を見ただけで、なんだか泣きそうになった。
「智…?どうしたの?」
「なん…でもない…」
駆け寄って、雅紀にぎゅうっと抱きついた。
安心できる…場所…
俺の居場所、ここしかないのに…
「お酒くさい…」
「ごめん…近所で飲んでた」
「そっか…お待たせしてごめんね?」
「ううん…大丈夫…」
足元が崩れていくような不安は、どこからくるんだろう。
まだ何も起こってないのに…何故か嫌な予感は拭えなかった。