第9章 届いた手紙と蝶々結び
でももう、後戻りができないほど――。
(この人が、欲しい)
ジョエルの頭のてっぺんに口づければ、ほんの少し身じろぎした後、チラリとこちらを見上げてきた。
左手で頬を包みこみ、親指で目元をなぞれば、魅惑的な瞳がスッと細められる。
ファンドレイは最後にもう一度、押し当てるだけのキスをしてジョエルを腕の中から解放した。
「――どうぞ、こちらを」
「ありがとうございます…」
本をジョエルに手渡せば、それを大事そうに抱える。
ファンドレイは跪いて、ジョエルの手に口付けた。
「では…また明日」
「…えぇ」
淑女の礼をした後、ジョエルはファンドレイに背を向ける。
一度だけ振り向いた彼女に胸を鷲掴みにされたような気がして、彼女が見えなくなった途端にファンドレイはその場にしゃがみ込んだ。