第9章 届いた手紙と蝶々結び
翌日も、ファンドレイは勤務の後に図書室へ向かった。
昨日の続きが気になっているのもあるが、今日の目的は違う。
女性への手紙の返し方が知りたいだけだ。
確か、読み飛ばした部分に手紙のやり取りについて書いてあったはずだ。
だから今日もあの本を読みに来たのだ、別に昨日の続きは関係ないのだ…とよくわからない言い訳をしながら、ファンドレイは肩をいからせながらやってきた。
と、目当ての書架のその奥に誰かがいることに気づく。
先客か…と舌打ちをしそうになって、ハッとする。
(あれは、まさか)
あの後ろ姿は。
豊かな黒髪に、華奢な体。
あの夜と違って背中の開いていない、長袖のドレス。
別人かとも思ったファンドレイだったが、ゆっくりと振り向いた彼女の瞳が大きく見開かれて、確信した。
「ファンドレイ様…?」
「…ジョエル、様」
見つめあったのは、一瞬か、数秒か。
先に目を反らしたのはジョエルの方だったが、吸い込まれるように彼女へと近づいていくファンドレイにまた視線を戻す。
ファンドレイは膝をつき、本を手にしている方とは別のジョエルの手を取った。
「……今日は、手袋ではないんですね」
ドレスの袖は手首までしっかりと隠すほど長い。
手の甲にキスをしてジョエルを見上げれば、一目で分るほど頬が赤く染まっていた。
(凄いな)
初心な振りも、ここまで来ると関心してしまう。
頬を染め上げるなど、やろうと思ってできることなのか。
ファンドレイはそんなことを思いながら立ち上がった。
「あ、あの、ファンドレイ様…」
「お手紙、ありがとうございます」
「あ…お手元に、届きましたか」
「はい。今日はそのお返事を書こうとこちらに参りましたが…直接お伝えできますね」
「えぇ、そうですわね」
口元に手をあててジョエルは小さく微笑んだが、次のファンドレイの言葉に笑みが消える。