第19章 恋は盲目〜side ファンドレイ〜
王妃の開く茶会の護衛任務が下り、ジョエルに会えないことで少々心がささくれだっていたファンドレイであったが、自分の担当場所がサロンの入り口だと知りジョエルが来るのではないか?という考えに及ぶ。
一目見られれば僥倖。
しかし、昼間のお茶会なので夜会で見るほど露出の多い出で立ちで来ることはないとわかっているのだが…同じくサロン入り口担当の他の騎士団の者にジョエルを見られるのさえ気に入らないのだ。
ファンドレイが見えるかどうか際どい場所にキスマークをつけた後は、いつも跡が消えるまで肌を極力見せない格好になっている。
ジョエルの侍女が毎回選んでいるとのことで、色々と配慮してくれているようなのだが、その跡ももう無いだろう。
決して胸の谷間を強調するようなものではありませんように、などと思っていた。
あれは自分のものなのだから。
そしてその日はやってきた。
案内役の王宮侍女の後ろについて、ジョエルが歩いてくる。
遠目にすぐに彼女だと分かるが気付かぬ振りで直立不動を貫く、はずだった。
今にも彼女が通り過ぎるだろうというところで、なんとジョエルがよろけたのである。
「あ…っ!」
初めて彼女と接触したときのことが頭を過る。
「ジョエル様っ」
条件反射のように彼女を受け止めて支えてやれば、
はらりと肩のショールが落ちた。
滑らかな素肌が見えて、ファンドレイの思考が止まる。
背中の窪みに口付けて、跡を残してしまいたい――そんな欲望が頭を占めた。
思わず手が伸びてしっとりとした肌に触れてしまうが、すぐに我に返りショールを拾い上げてかけ直した。
「っ、大丈夫、ですか」
「えぇ…ありがとうございます…」
ジョエルは縋るようにファンドレイの腕に身体を預けたまま自分を見上げて来る。
その可憐さに緩みそうになる口元をぐっと引き結んだ。
誰も見ていないのなら、今すぐ口付けてしまいたいという気持ちが溢れ出る。
パチリと目が合うとジョエルの瞳は動揺したように揺れて視線が逸らされた。