第18章 幕間〜とある司書の密かな恋〜
そういえば、あの辺りの本の貸し出し手続きをしたっけな、と思い出す。
彼女が窓口に来るとドキドキしてしまって、彼女の顔や手元、それから貞淑な長袖の衣服の下にある豊満な胸に意識が散って何の本を借りて行ったのかあまり記憶に残らなかったのだ。
彼女の父親は騎士団出身だし、分野としてはそんなに変なことでもないか、などと思ったくらいだった。
がしかし。
彼女の目的は、本ではなかったのである。
ジョエルの隣には、あの騎士団の男がいたのだ。
とはいえ。
なんだか違和感しかない二人の様子に首を傾げる。
どちらも顔が強張っているのだ。
秘密の逢瀬なのだからニコニコしていたり嬉しそうな表情だとか待ちきれない!みたいな感情が出るのかと思いきや。
ジョエルは司書にはにこりと微笑みかけるが、やってくるときも帰っていくときも表情が無いのだ。
二人寄り添ってはいるようだが、男の方はさすが騎士団所属といったところか、人の気配に敏感なようでアレクセイに気付いてチラリと視線を投げてくる。
そうなるとそそくさと立ち去るしかないので、ずっと様子を伺うことはできない。
(うーん…もしかして、ジョエル様は言い寄られて困ってる?でも何か理由があって断れないとか…)
そもそも、シドリアン・パルマンティエとはなぜ婚約話が進まないのだろうか。
この騎士団の男が関係していて、それを妨害しているのかもしれない。
(あぁ、ジョエル様、なんてかわいそうな…)
すでに行き遅れとも言われる年齢に差し掛かっており、それは彼女にとって酷く不名誉なことだろう。
社交界の華と言われ続けた娘が中々嫁ぎ先が決まらないだなんて。
何者かに邪魔されているに違いない。
そんな風に考え出すと止まらなくなって。
アレクセイは同僚に真偽もわからないことを話してしまった。
あの騎士団の男が無理やりにジョエルに迫っている――という噂は、瞬く間に王宮の中を駆け巡っていったのであった。