第18章 幕間〜とある司書の密かな恋〜
「ねぇ、聞いた? あのジョエル様が男爵子息とご婚約だそうよ」
「え?シドリアン様はどうなったのよ?」
「それが!プレイラ様とご婚約!!」
「ええ?! どういうこと?!」
「男爵子息って誰よ?」
「ほら、この前昇格試験に合格した人よ」
「わたし知ってるわ。最近、よく図書館に出入りしてるのよ。ジョエル様もね」
「え、その噂本当だったの?」
侍女達の会話に、王宮図書館司書のアレクセイは思わず聞き耳を立ててしまう。
ジョエル・スブレイズ公爵令嬢といえば、誰もが振り返る美人である。
平民上がりのアレクセイでも名前は知っていて、彼女はここ最近足繁く図書館に通っている。
彼女がやってくるのは大概時間帯が決まっていたので、その時間の勤務に以前から当たっていたアレクセイは初めて彼女を見たときに、一目惚れしてしまったのだ。
当然手なんか届かない存在ではあるが、同じ空気が吸えるというだけで胸が震えた。
高嶺の花過ぎてどうこうなりたいなんて思わないけれど、誰のものにもならないで欲しいと願ってしまった。
けれど、それは叶わないことだとすぐに思い知る。
その日も彼女が図書館にやって来るのをアレクセイは入口からほど近い貸し出し窓口で待っていた。
業務があるのでジョエルが来たからといってついていくわけにも行かないし、そんなことをして付き纏いだなどと思われたら職を失いかねない。
だから、毎回ただ彼女が来館して帰っていくその際に窓口前を通る、もしくは貸し出し手続きをするときだけ、その美しさを目に焼き付けるように見ていた。
彼女が図書館にやってくるようになったと同時期に、騎士団の男も頻繁に来館するようになる。
当初は何とも思っていなかったが、たまたま書架整理もあって館内の奥へ行かなくてはいけないこととなり、その間にジョエルが帰ってしまったら嫌だなぁと思いながら急いでいると、本当に人が滅多に来ない分野の書架の奥に彼女を見つけた。