第13章 思惑通り
翌朝、ディナントを除く全員が朝食を取っているときだった。
「今週末、突然だが夜会を開く」
マラドスの言葉に派手好きなカトリアナはまぁ、と嬉しそうに微笑んだ。
「本当に突然ですわね」
「お前が主役だぞ、ジョエル」
「…え?」
「あの男にも招待状を出しておいたからな」
「えっ」
夜会など面倒な…と思って零した言葉にマラドスが満足そうな顔をして応える。
するとカトリアナが「あらあらまぁまぁ」と至極楽しそうに声を上げた。
夜会には基本的には招待状は不要だ。
どこの誰だか身元がはっきりしており、それなりの爵位を持ち、身なり振る舞いがしっかりしていれば大抵は参加できる。
もちろん正式なゲストというものはあって、貴賓客には招待状を出す。
同等以上の爵位を持つ人物や、仕事上の取引相手、そして息子や娘の婚約者、またはその候補者がその類だ。
故に、通常であればファンドレイがスブレイズ家から招待状を渡されることは無い。
つまりマラドスは彼を婚約者候補として招待しようとしているのだ。
「お父様…」
「お前もいい歳だからな…。騎士団で何度か見かけていたんだが。悪い男ではないだろう」
「うふふ。いよいよジョエルが結婚するのね! どんなドレスを用意しようかしら。早速お針子を呼ばなくちゃいけないわね。マラドス、貴方も新しいものを作るわよ」
目を輝かせるカトリアナに、ジョエルは慌てて首を振る。
「ま、待ってお母様」
「大丈夫よ、あなたのドレスもちゃんと考えるから」
「そうではなくて」
「あら、もちろん彼の衣装もよ?」
「いやそれは不要だ。騎士団の盛装がある」
「まぁ。地味じゃありませんこと?」
「式典やお披露目のパレードで着る方の盛装だ」
「あぁ…あちらの方ね?」
「そうだ」
「ふふ、懐かしいわね。私達の結婚式を思い出すわ」
「お母様、聞いて――」
「ジョエル、マラドスったらね」
あぁ、とジョエルは頭を抱えた。
カトリアナの思い出話は長い上に、途中で止めたりしてくれない。
ジョエルの声など聞こえなくなっているに違いない。
(だから…まだ求婚してくれるかどうかもわかりませんのよ…!)