第8章 トト子がいちばん!!
キッチンから血のディナーショーを見ていたゆめ美は、申し訳なさで胸がつまり溜め息をこぼした。
「伯父さん、集客出来なくてごめんね」
「はっはっは!次はリーズナブルな価格にすればきっとみんな集まるよ」
ディナーつきで六千円のコースにする予定が、トト子の提示した価格設定に従い四万になってしまったのである。
「自分を責めちゃダメだよ。それに…」
しゅんとするゆめ美の頭を、店主は子供をあやすようにポンポンした。
「こうして、みんなが楽しんでいる。笑い合っている。目に見える結果よりも、心の充足感が大切だと思わないかい?」
「伯父さん…」
(誰も楽しんでないし笑ってないよ?)
とはなぜかツッコめず、ゆめ美は口をつぐんだ。
殺人デビルシャークと化したトト子を眺めながら、店主は口髭を撫で「青春だねぇ」と呟く。
これのどこが青春なの?とまたしても胸の内でツッコミを入れつつ、どうやってトト子を落ち着かせようかあれやこれや考えていると、
「あれ?私何を…?」
動かない六人をタコ殴りしていたトト子が、ハッとした表情を見せた刹那、いつもの柔和な顔つきに戻った。
「トト子、あ、あのさ…」
「キャーッ!みんな蟹みたいに泡吹いてどうしたの!?」
「……」
店主と顔を見合わせつつ、ゆめ美は思った。
もしこれが本当に青春ならば、青春とは精神と肉体に深い傷を負う魂の鍛錬だな、と。
その後、出された食事はみんなで美味しく頂きましたとさ。
9章へつづく