第8章 トト子がいちばん!!
ここは、とあるライブハウス。
魚の被り物をした可愛らしいアイドルの立て看板の奥、壁一面にバンドやらアイドルやらのチラシが貼られごちゃごちゃした階段を降りて行けば、分厚い防音ドアの前に物販スペースがあった。
「はぁー…今日も売り上げゼロザンス」
どうやら閑古鳥らしい。CD、サイリウム、団扇にストラップ…一つも売れることなく寂しげに並んでいる。
「こんな、おバカな六つ子以外集まらないライブ、ボロ儲けどころか大赤字ザンス」
ザンスザンス言ってるこの男は、何を隠そう昭和の大スターイヤミである。
だがしかし、流行というのは残酷なもの。かつて大流行した「シェー」も現在では化石扱い。
時代に取り残された大スターイヤミは、今は細々とちょっとアブナイアレとかソレでなんとか生計を立てて暮らしていた。
ダメな大人の代表イヤミは、売れ残りまくっているお魚アイドルトト子のグッズに虚しく囲まれている。
要はこのビジネスは大失敗だった。
「あの子で儲かることを考えたミーがバカだったザンス…」
深く嘆息し、イヤミが独りごちていると…
「オラアァァァアーーーッ!!!!」
ゴトン!!キィーーーン!!——と、トト子のシャウトと共に、マイクをぶん投げる音がライブ会場から聴こえてきた。
「またやってるザンス…。はい撤収撤収〜」
今日のライブも中断だと判断したイヤミは、グッズをダンボールに詰めて片付け作業を開始するのだった。