第18章 アンケート回 松怪奇譚〜追〜
怒り狂った女将が脚で天井を切りつけると、薄っぺらな天井に縦横にひび割れを発生させた。地響きと共に天井が崩れていく。
三人の頭上から容赦無く天井が襲いかかってきた。
「ユメ!!」
「トッティ!チョロ松くん!早く向こうへ——」
壁に手をつき怯える瞳をトド松へ向けた刹那、ゆめ美の身体が横に飛んだ。
「あ…っ」
「逃げて」
落ち着き、優しさに満ちた声だった。
声の主は、精いっぱい力を込めてゆめ美を突き飛ばした。
破壊が行き届かない廊下へと。
大好きな女の子を守るために。
もう、女子でもあざと可愛いみんなの癒し(自称)でもクソビビリでもヘタレでもない。
立派な"漢"である。
「チョロ松くん、トッティッ!!」
ゆめ美が手を伸ばしても、崩れ落ちる瓦礫がゆめ美と二人を断絶する。
チョロ松とトド松は、覚悟を瞳に宿し、ふわりと笑顔をゆめ美へ向けた。
「ゆめ美ちゃん、こいつやっつけてキミを助けに行くよ!だから、無事再会出来たらひ、膝枕してね!」
「ボクはヘソ出しウェイトレス!」
「だめ…だめだよ!逃げてーーっ!!」
瓦礫の雨で、ゆめ美の悲痛な声が掻き消される。
「…お願…い……逃げ…て…」
振動は轟音となって建物全体を揺らし、舌を噛みそうになりまた転ぶ。ゆめ美は頭を守るように手で覆いながらギュッと目を閉じた。
・・・
程なくしてゆめ美が目を開ければ、そこは一面の暗黒世界。
恐らく停電してしまったのだろう。
静まり返った闇の中、力なく手を伸ばすと、分厚い瓦礫の山が壁となって手のひらの熱を奪うのだった。
19章へつづく