第18章 アンケート回 松怪奇譚〜追〜
薄暗い廊下を、おそ松と一松は足音を立てぬよう慎重に進んでいた。
ロビーから中庭に出られるガラス戸を見つけ、外に出た二人は絶句する。
「なんで気づかなかったんだろーな」
「うん…」
中庭の池は干上がり、辺り一面雑草が生えっぱなしで壁や石畳にツタが覆っている。何年も何十年も放置されていたようだ。不可解なことを挙げていけばキリがないが、やはりここはトド松が言っていた通り廃旅館だったのだ。
「大分アレだけど、ちょっと休まない?」
おそ松がベンチを指差すと、一松はゆっくりと頷いた。
埃とツタを払い、二人はカビ臭いベンチに腰掛けた。見上げれば夜空は、黒と灰色を塗りたくったようなどんよりとした曇り空。
「休んだはいいけど汚すぎて落ち着かねー」
「…確かに」
「この様子を見ると、廃旅館に女将って名乗るババアが勝手に忍び込んで何かを企んでるってとこか?」
「たぶん、そう」
「んで、イヤミとチビ太に嵌められて俺らが巻き込まれてる、と」
「クソだね」
「だな」
しばらく、空を振り仰ぐ兄の横顔を眺め相槌を打っていた一松だったが…
「おそ松兄さん」
「ん?どした?」
胸の中につっかえていたことを思い切って口にした。
「さっきの…本気?」
「さっきのっていつどこで何の話だよ?」
「…キスするって話…」
顔を夜空へ向けたまま「あぁ、あれね」と呟き、質問を返す。
「本気だったらお前はどうなんだよ?」
「っ!べっ、べつにどうもしないっ」
「じゃあなんで聞いてきたの?」
「…なんとなく」
「ふーん。なら俺がどうしようと関係ないんだな?」
その一言で、一松の心にズキンと痛みが走った。
まるで、鎖でぐるぐる巻きにしたように胸が締め付けられる。
「……好きに…すれば」
それしか返せず、下を向いた。
分かりやすくいじける一松を一瞥し、兄は諭す。
「一松さ」
「……」
「お兄ちゃん、お前のそーゆーとこすっげー心配」
「は?なにいきなり」
一松がジトッと睨み付けても、慣れっこなおそ松はニーーッと笑顔を返す。