第16章 アンケート回 松怪奇譚〜序〜
一日の疲れを背負い、人々が帰路につく夕暮れ時、ハイブリッドおでんの暖簾がかけられる。
鼻歌をフンフンしながら、我が子のように可愛いおでんをグツグツと煮込むのは、この屋台の店主、チビ太だ。
「オイラのおでんっは日本いちぃーーっとくりゃあ!カーーッうめーぜコンチキショー!!」
出汁が美味しく取れてご満悦なチビ太。
今夜のおでんが余ったらおでん風呂にでもしようかと妄想に耽っていると、一人の客が暖簾をくぐり、席に着いた。
「チビ太、どーもザンス…」
「おぉイヤミ…ってなんでぇオメェ!?干物みてぇなナリしてどーした!?」
髪はボサボサ目は虚ろ。ろくな食事にありつけていないのか、くたびれたスーツの下は、風が吹けば飛んでいきそうなほどやつれている。
「もうミーはおしまいザンス…」
「何があったかオイラに話してみな」
と、グラスを置きながらチビ太。
イヤミは俯いたまま、ぽつぽつ語り始める。
「……選挙に出馬するも落選。飲食店経営をするも破綻。アイドルのグッズ販売も閑古鳥。挙げ句の果てには家財道具をおバカな六つ子にトリックオアトリートされ、身も心もスッカラカンザンス…何もなさすぎて涙さえ枯れ果てたザンス……」
「あちゃー…どん底だな」
「願わくばチビ太…落ちたのでいいザンスから、おでんを…おでんをミーに分けてチョーよ…」
力なくテーブルに突っ伏し、今にも消え入りそうな声で話すイヤミを見て、チビ太は困ったように眉根を寄せた。