第12章 恋とニャンコと真心と
「じゃーね伯父さん」
「はいおつかれー」
仕事を終えたゆめ美は、店主に挨拶してアカツカ亭のドアを開けた。
夜風が吹くと、髪にこびりついたお店の香りが鼻をくすぐる。大好きなオムライスや、ハンバーグ、海老フライが混ざったような、そんな匂い。
(疲れたけど、これじゃあさすがにシャワーを浴びないと眠れないなぁ…)
飲食店で働くならば、避けては通れない道である。
帰ったら松汁飲もう、なんて考えながらいつものように店の裏を覗き込んだ。
「メガネくん、ごはんだよ……って、あれ?」
店の路地裏に最近住み着いた、橙の毛並、メガネをかけたような目元のにゃんこは、ゆめ美の新しいお友達だった。
店主に内緒で、帰りがけにキャットフードをあげるのが日課になっていたのだが…。
「えと、こ、こんばんは」
まさか路地裏で人と出くわすと思わなかったゆめ美は、その背中に思わずご丁寧に挨拶をした。