第11章 恋煩いライジング
「ねえ!チョロ松くん聞いてるー?」
ランチ営業を終えたアカツカ亭は、近頃すっかり六つ子やトト子の溜まり場だ。
今日は、トト子とトト子のマネージャーっぽいことをしているチョロ松が遊びに来ている。
「聞いてるよ。えっと、次のライブまでにカレンダーの発注を終えて…」
「その話はもう終わったでしょ。今は握手会について。もうっ!チョロ松くん最近上の空じゃなーい?」
「ごめんごめん。アイドル弱井トト子と行く、深海魚バスツアーだっけ?」
「頭沸いてんのかクソニートォォオオ!!」
目を吊り上げ般若の形相になったお魚アイドルの後ろから、苦笑しながらゆめ美が顔を出した。
二人の手元にコーヒーを置く。
「トト子、チョロ松くん疲れてるんじゃない?今日はもう休ませてあげたら?」
「そそそんなことないよ」とそんなことある感じでどもりながら、チョロ松はコーヒーに口をつける。
「何よー!親友のあたしよりチョロ松くんを庇うのー?もしかしてゆめ美、チョロ松くんに惚れてるー?」
「ベギラゴブッシュッッ!!!!」
「キャーーッ!?」
動揺したチョロ松は、事もあろうにトト子に向かいコーヒーを噴射した。
ぶっかけられ、結った髪から琥珀色の雫をぽたぽたと垂らすトト子。
「だ、大丈夫トト子!?待ってて!ふきん持ってくるから!」
「ごめんトト子ちゃん!!コーヒーが気管にハンパない勢いで逆流ぅぐッ!?」
いつもの必殺ボディブローをくらわせ、トト子はゆっくりと立ち上がった。ぷつりと意識を途切れさせ、テーブルに横たわるは哀れな眼鏡スーツ男子。
「もーいーもん!帰るー!!後はよろしくゆめ美〜」
「え?ちょっと!トト子!」
頬を河豚のようにぷっくりさせながら、トト子は店から出て行ってしまった。
・・・