第10章 恋熱にほだされて
おそ松とデートした翌日、ゆめ美はいつものようにアカツカ亭のオープン準備をしていた。
テキパキとルーティンをこなし開店を待つ。
(時間余ったからセットのサラダ多めに準備しようかな…)
冷蔵庫を開けた時、店主がゆめ美を呼んだ。
「ゆめ美ちゃーん生クリーム持ってきてくれなーい?」
「はーい」
紙パックに入った生クリームを取り、シチューを煮込む店主の元へ持って行こうとした——その時。
「っ!!」
足元がふらつき、ゆめ美はその場にしゃがみ込んだ。
「ゆめ美ちゃんどうしたの!?」
「ごめん伯父さん…目眩がして…」
危うく倒しかけた生クリームのパックを店主に手渡す。
「……顔色が優れないね。バックルームに体温計があるから熱測ってきなさい」
「平気…だから」
強がってみたものの、店主は「駄目」の一点張り。
強制的にゆめ美をバックルームへ連れて行く。
熱は三十八度五分もあった。気丈に振る舞っても誤魔化せる限界なんてとうに超えていた。
「今日は帰りなさい。昼過ぎからバイトの子も来るからどうにかなるさ」
「でも…」
「無理は禁物。それに、風邪が長引いたら他でもない、私が困るからね」
「……ごめんなさい」
シュンと俯いたゆめ美の頭をくしゃりと撫でて、店主は安心させるように優しい声音で口を開く。
「明日は私の用事で臨時休業にするつもりだったんだ。だから今日と明日、ゆっくり休んで早く元気になるんだよ」
「本当にごめんなさい。頑張って治すから…!」
「頑張らなくていいから休みなさい」
その後、ゆめ美は帰り支度を終えると、店主に何度も頭を下げて仕事を早退したのだった。
・・・