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【YOI・男主】Stay Gold

第2章 ダスヴィダーニャ!涙の引退宣言!


舞う氷片の軌道、着氷した瞬間の、歓声。
そこに立つ自分は、どこまでも行けるような気がしていた。
緊張と快感のはざまでただ、ただ。
踊ることのできるあの場所が、僕が僕らしくいられる唯一の場所だった。
肉体から解き放たれた精神が、熱に浮かされるままに踊っているような、現実味のない身の軽さ。
僕はあの場所に、恋をしていたのだ。

唐突にすべてが終わった、あの時までは。



Stay Gold.
#1 ダスヴィダーニャ!涙の引退宣言!



宮樫徹には何が起こったのか、まったく理解できなかった。
頬には冷たい氷の感覚、体の熱は上がっているはずなのに、体の芯はすっと冷え切っている。
いつも通りに跳んだはずだった。
いつもの通りに着氷するつもりだった。
だが脚は重く、徹の思う通りには動いてはくれない。
上半身と下半身が、別の人間になってしまったんじゃないかと、混乱する頭で考えもした。

「あ……」

弱弱しくもれた声が、自分のものだと気付くのに時間がかかった。
派手にリンクへ体をたたきつけた徹を、憐れむような目で見るリンクメイトの顔が見えて、かっと顔に血が上る。

「トール、大丈夫か?」

コーチが差し出した右手をなんとか握るが、立ち上がる気力はなかった。
氷の上にぺたんと座り込んだまま、徹は考える。
今、自分の思うように跳べなかった事実。
跳んだ瞬間に右膝を襲った電流のような痛み。
導き出される結論は、一つしかなかった。
憐憫の目を向けるリンクメイトの顔からも、それは明白だ。
ただ、受け止めきれない現実に、徹は目をそらして結論を遅らせる。

「トール」

コーチの呼びかけに顔を上げると、彼の瞳の中に映る自分と目があった。
恐怖と不安に顔を引きつらせる宮樫徹の顔は、いつかのグランプリファイナルで表彰台に上がった人物と同じものとは到底思えない。
コーチの表情から、徹は彼が次に言う言葉を予知してしまい、より眉を下げた悲痛な顔をした。
懇願するように頭を振り、コーチから目をそらす。

――いやだ、言わないで、おねがい。

その徹の願いを裏切って、コーチは結論を下した。

「トール、お前はもう、リンクから降りるんだ」
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