赤い空、秋の風、耳に届くは雨の声。 《ハイキュー!!》
第3章 雨の声を聴く。
言うだけ言って、玄関に駆け込む。それからガチャン、とカギをする。たった1つのドアが私と木葉を隔てる、分厚くて越えられない高い壁に思える。
『はぁ……』
ドアに背中を凭れ掛け、ずるずるとしゃがみ込む。外からの音に耳をすませると、砂利を踏むのが聞こえ、それが少しずつ遠ざかる。木葉の走り去る後ろ姿を想像し、すぐにでもドアを開けたい衝動に刈られる。
ダメだ、動くな、私。今行ったら、追い掛けてしまったら、なくなってしまう。私が木葉に言った、言葉の意味が。
『……っ、う…』
ぎゅう、っと手を握る。爪が肌に食い込んで、痛いと感じるくらいに、強く。そうでもしないと、足が動いてしまいそうだった。追い掛けて、その背中に抱き付きたかった。
のろのろと立ち上がり、部屋に向かう。そのままベッドに倒れ込んで枕に顔を埋める。ふと目線だけを動かして見遣ると、窓の外はザァザァと雨が降っていた。
"雨の日は、空が泣いている"
小さい頃から、雨の降る度に私はそう思っていた。雲とケンカしたから泣いている、神様に怒られて泣いている、おやつを食べられて泣いている。今考えてみれば、到底あり得ないような、幼児ならではのかわいい想像。
でも年を重ねるにつれ、その考え方は少しずつ変化していった。根本的な"空が泣いている"に変わりはないけれど、その理由が。
辛くて苦しくて、それでも泣けない誰かの為に。何十、何万、何億といる人の為に。空は大粒の雫を落としているのだと。
でもこの雨は、そうじゃない。どの理由にも当てはまらない、涙であってほしい。
『ごめん…秋紀……っ』
この雨は、どうか彼一人のもので、彼一人の為であってほしい。今まさに雨に打たれ、泣いているだろう、彼の。
ぽたり。雨ではない水滴が、枕を濡らす。ぽたりと垂れたそれは、瞬く間に枕にいくつものシミを作っていく。
『っ、く……ぅうえ、っふ、えっく…ごめ、なさぃ…ごめ…っく、うっ…く…っ』
私は泣きながら謝罪を口にした。誰に対しての、何に対しての謝罪なのかは分からない。1つだけ確かなこと、それは、もう木葉とは今までのような関係になれないこと。
『秋紀…あき、のり……ごめっ…なさい…』
ついぞ名前で呼ぶことのできなかった彼を想い、私は泣いた。