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秋色恋路。(企画SS)

第3章 この色を忘れない。(戦国無双・真田幸村)


「…、殿…今、なんと……」

悲しくなるから何度も言いたくないのに。
ひどい人ね、そう言って小さく笑って幸村の目を見てもう一度繰り返す。

「私ね、滝川様の所へ奉公に行く事に決まったの」
「…!!ほ、奉公など…!貴女様は…!武田の!」
「武田はもうないわ」
「……!」

武田は滅びた。
いくら私が武田の姫であろうと、所詮武田の忘れ形見。
救ってくれた真田の役に立つのであれば喜んでそこに参りましょう。

「殿……」
「そんな顔をしないで幸村、貴方には揺らがない信念を持っていて欲しいの。そうすれば、…っ!」

突然に引き寄せられ辿り着いた幸村の腕の中。
木々達と同じ赤い羽織が目前に広がる。

「…そうすれば、貴女の事は何れ忘れると言いたいのですか」
「……幸、村」
「信念を持てと貴女が言うのであれば、私は貴女を諦めない」

力強い腕の中でそう囁かれてしまったら、折角の決意が揺らいでしまう。
このままここに居たいと思ってしまう。
涙が一粒流れ落ちた。
その涙は幸村の羽織に吸収されていく。

これが貴方の前での最後の涙にするから。


「…私は武田の女よ、決めた事は信念を持って貫くわ」


抱き締める幸村の腕が一瞬強まる。
その後にふっと、力が抜けたのがわかった。

「わかり、ました…貴女がそう決めたと言うのであれば…」
「うん、幸村…感謝するわ、今まで私を守ってくれて……」

幸村は私の強がりを見抜いているのだと思う。
その上で、私の思いを汲んでくれているのだ。


「この風景を目に焼き付ける為にここに来たと、そう貴女は言いましたね」
「……うん?」

優しく両頬を包まれ顔が寄せられる。

「ゆ、きむら…?」
「ならば……私の事も心に刻ませて下さい」

「えっ…?あ、ぅん…っむ、」

言葉の意味を理解する前に、幸村の唇がわたしのそれに重なった。



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