第3章 この色を忘れない。(戦国無双・真田幸村)
ここの秋はあっと言う間に通り過ぎてしまうから。
少しでも目に焼き付けて置きたくて。
城のすぐ裏にある高い山へと馬を走らせた。
もうすぐ目的の場所。
そう思った直後、後ろからもう一騎近付いて来る蹄の音。
「殿…!!」
「幸村」
「お一人で城を出られるなど危険です…!何処に賊がいるか…っ」
「あら、幸村だって勝手に城を出るでしょ、信之に聞いたわ」
後ろから追い掛けてきた心配性の幼馴染みの言い分を一蹴したが、幸村も引き下がる事なく言い返してきた。
「わ、私の事は良いのです…!殿の身に何かあったら…!!」
騎上でこうも言い合っていたら馬も迷惑だろう。
私は幸村に向かって小さく舌を出し、馬を速めた。
そうして着いた目的地。
「………綺麗ね、ここは変わらないわ」
眼下に広がる色とりどりの木々。
それぞれに赤や黄にその身を替えた木々達のその鮮やかさはどんな反物よりも美しいと思う。
私はどうしてもこの色と風景を覚えておきたかった。
馬を木に繋ぎ、腰を下ろせる所を探す。
ちょうど景色を見渡せる場所に大きめの岩を見つけて腰掛けた。
「殿…どうしたのです?貴女らしくもない」
振り返ると呆れた顔をした幸村がいて、私の隣へと腰掛けた。
こうして並んでいられるのも、きっと今日で最後。
そう思うと胸が締め付けられたけれど涙を流すわけにはいかなかった。
「殿…?」
「ここの景色どうしても見たくてね、一人で城を抜け出せばきっと………貴方が追い掛けて来てくれるだとろうって、思ったの」
少し笑ってそう告げると、幸村は驚いたように目を見開いた。
何故、そんな事を。
そう言いたそうな顔をしている。
ならば人づてで伝わる前に私の口から伝えたい。
きちんと、さようならを。