第25章 過去からのメッセージ
──……
『──っどうして駄目なのよ!』
バンッと机を叩けばランプの灯りがゆらりと揺れた。
船室に響き渡るその声に、周りにいる仲間達は黙って事の成り行きを見守っている。
ここ船長室で、声を荒げているのはこの船の仲間である栗色の髪をした少女だ。机を挟んで向かいに座る男に今にも噛み付きそうな勢いで迫っていた。
「何回も言ってンだろ…駄目なものは駄目だ」
喚く少女に男は先程から同じ言葉を繰り返す。レザーのアームチェアに腰掛け麦わら帽子を身に付けた、我らが船長ロジャーだ。
『どうしてよ! このままじゃ”レイリー”が…!』
話の内容を知らなければ、まだ見た目が年端もいかない少女が船長に我儘を言っている…そんな風に見えるだろう。だが少女が言わんとしている事が分かる仲間達の顔付きは皆険しかった。
それは一瞬の不覚だった。先日の交戦でこの船の副船長”レイリー”は大怪我を負った、致命傷とも言える程の大怪我だった…それでも何とか相手の船を撃ち落とし勝利を収めたのだ。
喜びに浸る間も無く直ぐにレイリーは治療室へと運ばれ、船医が持てる全ての力を尽くした…だがあれから5日、レイリーは未だに目を覚まさない。
『ロジャーも心配じゃないの⁉︎ もしこのまま──』
「船医は峠は越えたと言ってるんだ…後はレイリーを信じろ」
『…っ』
ユナは奥歯を噛み締めた。確かに船医はそう言っていた…けど、そう言われてもう3日だ。もし…もしこのまま目を覚まさなかったらと思うと居ても立っても居られない。
だから私の”能力”でレイリーの傷を癒したい。そうロジャーに直談判してるのに、駄目だの一点張りで全く聞く耳を持ってくれない。
救える力があるのにそれが出来ないなんて…っ
『…何よ…私の力よ、私の好きに使って何が悪いの』
爆発しそうな感情を押し殺しながらユナは真っ直ぐにロジャーを見つめる。若干睨みとも取れる視線を真摯に受けながら、ロジャーもユナの瞳を見つめ返した。
不謹慎ながらもユナのセラフィナイトの瞳が綺麗だと思った。激昂する瞳の奥が微かに揺れている。