第19章 キミとの約束(後編)
銃声が鳴り響きユナの瞳が大きく見開かれた──全てがスローモーションに映る。
視界いっぱいに広がるのは肌色と…飛び散る鮮やかな紅──。
『──っエース‼︎』
ユナの悲痛な叫びが倉庫内に響き渡った…目の前には血を流し横たわるエースの姿。
銃弾がユナに届く前に間に入ったエースはユナの代わりに銃弾を二発食らった、一つは腹部…もう一つは左胸。
エースを中心に広がる血の海は射し込む夕陽に照らされ更に紅く染まっていく──。
『いや……エース……!』
「…ハハ……なんて顔してンだよ…ユナ…」
『……!』
幸い心臓に弾は当たらなかったが当たりどころが悪かったのか起き上がる事は難しかった。
泣きそうな程に顔を歪めたユナの頭を撫でてやりたかったが両手についた手枷がそれを阻む。
ガチャガチャと鳴る冷たい金属の音がこれ程までに煩わしく思うとは。側にいるのに、手を伸ばせば届く距離なのに…触れる事すら出来ないなんて。
歯痒さにエースは奥歯を噛み締めた。
「はっ…ハハ、他人を庇ってやられるなんてバカのする事だ」
二人を見下ろすブーゲンは冷たく言い捨てる。
──エースの手を取りたかった。
「弱いヤツを仲間にするからこんな目に遭うんだ」
──傷口を押えてあげたかった。
「まァどっち道お前らはここで死ぬんだがな…!」
ブーゲンが再び銃口をユナに向ける。だがユナはそんな物気にも止めずにエースの名を呼ぶ。
自分の方が重傷のくせに私を気遣って笑うエースにバカって言ってやりたかった、なんで私なんかを庇ったのって言ってやりたかった…なのに言葉は喉に詰まり、千切れる程に腕を引っ張っても両手は自由にならない。
私のせいでエースは傷付いた。
私のせいでエースは血を流した。
私のせいで──……
ドクンドクンと心臓の音がやけに煩く聞こえる。
頭が割れそうな程の酷い頭痛も気持ち悪さも身体中に出来た傷の痛みでさえも──今のユナには何処か他人事のように感じ、ただ心臓の音だけが大きく聞こえた。