第17章 神との対峙
いつもの様に何をするわけでも無く、ただボーと膝を抱えて崖の上から海を眺めていると不意に草を踏み分ける足音が聞こえてきた。
人が踏み入る事など滅多に無い”この島”に一体誰が来たというのか…気にもなるが正直どうでもいいかと考え直すと少女は再び視線を海へと戻した。
────……。
足音は次第に近付き遂には止んだ、恐らく少女のすぐ後ろに”その人物”はいるだろう…だが少女が振り向く事はない。
「…おめェか、助けて欲しいってのは」
少女の姿を見つけた男は開口一番そう言った。だが男の声が聞こえていないのか目の前の栗色の髪の少女は海を眺めたまま何も反応しない。
「おーい、聞こえてるかー?助けに来たぞォ」
今度は先程より大声で言うがやはり少女はこちらを振り向かない…もしかして耳が聞こえないのか、そう考えると男は少女に近付き前に回り込むと徐にその顔を覗き込んだ。
「もしもーし、聞こえてるかー?」
『……煩いんだけど』
目の前で、しかも大声で言われた少女は流石に黙っていられず眉を寄せながらその男を見上げる、そこには麦わら帽子がよく似合う男がニッと笑って佇んでいた。
「なんだ、聞こえてンじゃねェか」
少女の見た目は十歳も満たないだろうか、その瞳は闇くまるで生気を感じられない…少女はフイッと視線を逸らすと再び海を眺めた。
「なんだよ、まただんまりかァ?…折角遠路遥々助けに来たって言うのに連れねェなァ……どっこいしょっと」
少女に無視された男は然程気にした様子もなく少女の隣に腰を下ろすと海を眺めた。
「いい眺めだなァ、ここならいくらでも眺めてられるな」
その言葉を最後に男は黙ってしまう。二人の間に沈黙が続くがここには目の前に広がる海の波の音と、背後にある森の草木を揺らす風の音とが二人の変わりに囁いていた。
少女の栗色の髪と男の麦わら帽子を風が撫でて行く──どれ程そうしていただろうか、太陽は海へと沈みかけ空は茜色に染まり出していた。
「さァーてと…そろそろ帰るかな」
男は伸びをすると立ち上がり、少女の頭をポンポンと撫でると「またな」と言って来た道を戻って行った。
『……変な人』
一体何をしに来たのか、男が消えて行った方を横目で見ながら少女が呟いたその声は風の中へと消えて行く。
──これが栗色の髪の少女と麦わら帽子の男の初めての出逢いだった。
