Wonderful Life〜素晴らしき日常〜【気象系BL】
第36章 第36章 僕達の引越し協奏曲
「着いたぞ」
気付かないうちに眠ってしまっていた僕は、翔くんの声で目を覚まし、ベビーシートの智也くんを見た。
あんなに泣いてたのに、車の揺れが気持ち良かったのか、それとも何かを感じていたのか、静かに眠っていて…
「とりあえずここで待ってろ、連絡するから」
「うん、わかった」
深夜だし、もし智也くんがまた泣き出しでもしたら、他の患者さんの迷惑にもなりかねない。
僕は智也くんの小さな手を握りながら、翔くんからの連絡を待った。
そして数分後…、僕のスマホが震えた。
恐る恐る耳に当てたスマホの向こうからは、翔くんの鼻を啜る音が聞こえ、僕の目からは勝手に涙が溢れ落ちた。
それから更に数分後、色々と手続きを済ませて車に戻って来た翔くんは、たった数分のことなのにすっかり疲れた様子で…
運転席に乗り込むなり、シートに深く背を預け、目頭を押さえたまま溜息を落とした。
「大丈…夫?」
顔なんて見なくたって分かるくらい、疲れ切ってる様子なのに、それ以外にかける言葉が見つからなかった。
「翔…くん?」
「とりあえず家、帰ろうか…」
「うん…」
家に帰ったところで、きっと休む間なんてないんだろうけど、多分そうすることが、今の翔くんには一番なのかもしれない。
てもさ、思うんだ。
こんな時、運転くらい代わって上げられたらな、って。