Wonderful Life〜素晴らしき日常〜【気象系BL】
第1章 僕達のちょっとした悩み
翔said
ブランコの下で点滅していたのは、智のスマホだった。
それを拾い上げた瞬間、嫌な予感が脳裏を駆け巡る。
最近、この辺りで若い男ばかりを狙った変質者が出没するらしい噂を、つい数日前に耳にしたばかりだ。
まさか…そんなこと…あるわけねぇよな…
確かに、恋人だって欲目を抜きにしても、智は一見すれば女にみえなくもない。
でも…、でも…!
「ねぇ、アッチの方で声しなかった? 叫び声…みたいな…」
「えっ…、どっちだ」
和の心なしかに震える声に我に返った俺は、これでもかってくらいに耳をそばだてた。
そうすると、微かに聞こえる、葉が激しく擦れ合う音と…俺の名前を呼ぶ声。
「あっちだ!」
俺は声のした方角に向かって一目散に駆け出した。
しっかり紐の結んでいなかった靴が片方途中で脱げたが、それに気を止めることなく、ただひたすらに走った。
「智! どこだ! さと…っ…!」
声を枯らす程名前を呼びながら、生い茂る草木を掻き分けて、公園内の小高い丘を駆け上がる。
そして頂上付近まで上り詰めた時、視界に飛び込んで来た熊のような大きな巨体と、その下で両足をバタつかせる…智の姿。
「てめぇ、コノヤロー!」
俺は躊躇うことなく、その巨体に飛びかかった。