第16章 Op.16 イブの晩餐
どうやらその日
海外から大御所のソウルシンガーが来訪しているらしく
ケイが招致した別の事務所と番組スタッフに交渉して
レオナの出演枠に特別出演することをとりつけたのだった。
「え…でもいいの?他の仕事とか入れなくて…」
「何言ってんですか!」
ケイがレオナの腕をがしっと掴む。
「レオナさん…レオナさんはもう十分すぎるくらい働いてるし稼いでます。年明けから約3カ月はウィスタリアにも戻れません……もうずっと休みもなく働いてるんです…だから」
ケイはまっすぐレオナを見つめた。
「以前の約束、ここで叶えていいですか?」
それは王宮の皆と会うことを意味していた。
レオナは胸が一気に熱くなり
同時に涙が込み上げてきた。
「ケイ……あ、りがとう…」
心なしかケイも少し涙ぐんでいる。
「本当はもっと休ませてあげたいんですが…」
「ううん、十分だよ」
レオナは自分の涙を指で拭った。
「…じゃあ、後でジル様に僕の方から連絡しておきますね」
レオナははにかみながら
大きくうなづいた。
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「レオ、失礼します、入りますよ」
レオの執務室にノックと同時に入ってきたのは
ジルだった。
「ジルどうしたの。ずいぶん急ぎのようだね」
レオは掛けていた眼鏡を外して
深刻な顔で飛び込んできたジルを見やった。
「レオ、イブに企画していた晩餐会の件ですが」
「あー俺出ないよ?その日は別の子とデートが…」
「……緊急事態です」
ジルはレオの執務机を両手でばん、と叩いてレオに迫った。
レオは息を飲んでジルを見つめる。
「……レオナが来ます」
「………!!!!」
レオは携帯電話を握りしめてがたっと立ち上った。
「…予定変更の連絡してくる」
そう言って部屋を出ていった。
「……他の者にも伝えなくては」
ジルは踵を返してレオの執務室を後にした。
そんなジルの顔は心なしか緩んでいた。