第12章 Op.12 真夏の夜の調べ・2
「…?」
「…さっさと利益を出してもらった方が、お前もいいのだろう?」
「……」
クロードは眉根を寄せて押し黙る。
「その利益を得て、地位を利用してウィスタリアの『文化』を掌握することがお前の望み…ではなかったか?」
いつも温和な表情の社長は
まるで別人のように言い放った。
「そのために…田舎の小娘を『身も心も』手籠めにしているんだろう?」
「……ええ」
クロードの返答は無機質だった。
「…食えない男だ」
社長はふっと笑いながら
舞台上で客席に手を振るレオナの姿を見下ろしていた。
Claud side----
シドのソロが終わり
舞台の転換をしている時刻。
控室で衣装の整理をしていたクロードの元に来訪者が現れた。
「よぉ…」
「…シドか。次もだろ?余裕だな」
「当たり前だ」
シドは控室に置いてあった椅子にどかっと腰掛ける。
「…そっちも順調のようだな、歌姫の『教育』は」
「何のことだ」
「…いや、『調教』と言った方が正しいか?」
クロードは手を止めてシドを見やる。
「何が言いたい?」
「金だけじゃないんだろ?あの小娘を飼いならす理由は」
クロードは鼻で笑った。
「勘違いするな。俺はあくまでデザイナーとスタイリストだ。あいつから受ける利益に期待しているわけじゃない」
「へぇ、そうかよ」
シドは余裕の笑みを崩さない。
「じゃあ…あの小娘が他の男に取られても何の問題もないな」
「それは相手による。スキャンダルになってマイナスイメージになっては困るからな」
「それはルイに対する牽制か?」
クロードは無表情にシドを見やる。
「ルイだとマイナスになるってことか。じゃあ俺は食ってもいいってことだよな」
「……」
「何だかんだ、ジルも興味持ってるみてぇだし…せいぜい気をつけるんだな」
そう言い残すと
シドは控室を出て行った。
クロードはため息をひとつつくと
廊下に出た。
そこにちょうどジルが通りかかる。
「ジル」
「クロード、なんですか」
「…最後のステージの前に衣装チェックするから、レオナを呼んできてくれないか」
「…?ええ、わかりました」
一瞬怪訝そうな顔をするが、ジルはうなづき
舞台袖へと向かっていった。