第12章 Op.12 真夏の夜の調べ・2
「1、2…」
ジルのカウントと共に
奏で出す艶やかなハーモニーと
シドのベースがグルーブ感を煽る。
それに乗って
カインのドラムもはじけ出す。
「Night and Day You Are The One...」
スタジオで練習をしていた時に
ジルと話したことを思い出す。
「…レオナさんはこの曲の歌詞の意味をご存知ですか?」
「いえ…ごめんなさい勉強不足で」
「いいんですよ…お忙しいのですから。これは、思い焦がれる心を歌う内容です」
ジルはふっと笑って楽譜に目を落とした。
「昼も夜も、どこに居ても貴方を思う…身体の底から貴方を求めている…そんな情熱的な内容です」
「そ…そうだったんですね…」
歌っている内容が思っていたよりも過激でレオナは顔を赤らめる。
「…レオナさんにはそこまで思い焦がれる相手がいらっしゃいますか?」
「えっ?」
昼も夜も思う相手……
つい頭をよぎるのはクロードの姿だが
クロードに対する思いは、焦がれる気持ちとは少し違う。
「…まだそういう相手には…」
レオナは困ったように笑った。
「そうですか。…そのような相手に出会えるといいですね」
ジルの微笑みは優しかった。
ソロが回され、再びヴォーカルのメロディに戻る。
「Night And Day...」
今までミュージカル曲のイメージの強かったレオナは
今夜の演奏で
妖艶で力強い
別の一面を世に晒すことになった。
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「いい選曲だったな」
テラス席。
最後のジャズナンバーが終わり、鳴りやまない拍手の渦が
眼下の会場に響き渡っている。
「そうですね。これでまた一歩、安定した歌手の地位を手に入れることができたでしょう」
「…今年中にアルバムを国内向けにリリースし、年明けすぐにワールドツアーを組む」
目を細め空を仰ぎながらそう言ったのは
アップスターレコード社の社長だ。
「ワールド…ツアーですか…」
眉をひそめ怪訝そうな反応をしたのは
クロードだった。
「…早計ではないでしょうか」
「いや…そのようなことはない。あの番組は世界的に注目を浴びているし、レオナの出演映像はすでにネットで出回っている…それに」