第1章 Op.1 原石発掘
「レオナさん、今日はどうしてここに来たの?」
ルイの質問は様々な意味にとれるものだった。
わずかに観衆が笑う。
「…歌うために、きました」
「おい、歌うためなら何着ててもいいってわけじゃねえ」
カインの口から発せられた言葉に観衆がどっと笑う。
「…」
「…んー俺はなんか可愛いなーって思うけど??」
ノアののんびりした声が、嘲笑の渦に微かに響いた。
「…確かに歌うだけなら、服は関係ないけれど」
ルイは僅かに目を細める。
「…舞台に立つ以上、音楽は『見せる』ことも含めて音楽だ。
君はその点において、すでに大きな減点になっていることを自覚したほうがいい」
やまない嘲笑に囲まれて
レオナは俯いた。
ふと手を見やると
真っ白になるほど力を入れてこぶしを握りしめていた。
そっと開くと
手の中に自分の爪のあとが残っている。
数刻前の
白昼夢
母親の言葉を思い出す。
そして
貸してもらったイヤリングに
衣装、髪留め。
(そうだ…私、ずっと笑われてきたんだった)
祖母やいとこたちの顔がよぎる。
(…なんだ、いつもされてるのと同じじゃん)
そう思えた時
レオナの中から
すぅーっと霧が晴れたようだった。
(じゃあ、いつも通り歌えばいいんだ)
レオナは
すっと、顔を上げた。
そこにはもう
何の迷いも残っていなかった。
それに気付いたのか
ルイは僅かに瞳を揺らすが
すぐに言葉をつづけた。
「で、何を歌うの?」
「異国の曲ですが…『Memory』を歌います」
世界的に有名なミュージカルの曲。
相当な歌唱力を要する、バラードナンバーだ。
「おい、その辺に転がってるポップスやロックの曲とはちげーぞ?そんな名曲で余計恥さらすだろ」
「…」
カインの言葉に、レオナは黙って微笑んだ。
「…いい顔」
ノアは気のない声で呟いた。
やがて、音楽が始まり
観衆が静まり返り
三人の審査員は
黙ってレオナを見つめた。
カインは小馬鹿にしたように頭の後ろで手を組み
ルイは腕組みをしながら無表情に
ノアは頬づえをついて微笑みながら…。