第1章 Op.1 原石発掘
少しずつ貯めたお金を使って
何も言わずに今日、ここに来た。
お母さんの言葉を
証明して見せたかった。
(これでだめなら諦めもつくし)
ふと横を見ると
舞台袖に置いてあるセットのガラス戸が
反射してレオナの顔を映し出していた。
そこには
いつもと全然違う自分がいた。
他の出演者たちの煌びやかな装いには負けるけど
(なんか…いつもより自信が持てそう)
「ではレオナさん、お願いします」
生まれて初めて塗られたルージュの唇を
きっ、と引きしぼって
レオナは一歩前に踏み出した。
ステージの上は
思っていた以上に照明がまぶしく
とてつもなく広く感じた。
広い広い舞台のど真ん中に
たった一人で立ち…
目が慣れてくると
自分の目の前には
沢山のカメラや機材、スタッフたちがいた。
(な…なにこれ……)
別世界に来てしまった緊張と不安で
胸の底からしぼられるような
全身がこわばるような感覚が襲う。
手足が僅かに震え
血の気が引いた。
さらに目が慣れてくると
三人の審査員たちの冷やかな視線と
その後ろに
何百人もの観衆が
こちらを見ていた。
番組の効果音と音楽が流れる中でも
レオナにははっきりと聞こえた。
…観客たちの
嘲笑が。
「はい、次の挑戦者はレオナさんです…これは…」
司会者は紹介しながら
笑いをこらえているのが分かる。
その笑いは
観衆たちのそれと同じだった。
「なにあの格好…」
「他に服持ってないのかよ…」
「絶対勘違いして来ちゃったのよねー」
観衆席とはかなり離れているのに
なぜかレオナの耳には彼らの声がはっきり聞こえた。
審査員の三人だけが
その嘲笑に全く反応していないことだけが
唯一の救いでもあった。
(クロードさんに助けてもらったけど…根本的にダメか…)
やがて音楽がやみ、会場が静まった。
「…レオナさん、こんにちは」
何の感情も含まない
ルイの言葉で
レオナの舞台の幕は、上がった。