第11章 Op.11 真夏の夜の調べ・1
二人が演奏を終えると
拍手と共に黄色い声が再び響いた。
(す、すご…ユーリって人気なんだなぁ)
「…い、おい、レオナ」
急に呼ばれてレオナはびくっと肩を揺らす。
「…なんだ、クロードかぁ」
「なんだってことはないだろ…ドレスの丈、どうだ?」
レオナのまとうイブニングドレスは
背中がざっくり開いていて、レオナの白い肌がくっきり見える。
夜空のような濃紺のカラーに
スワロフスキークリスタルのビーズがちりばめられている。
「大丈夫だと思うけど…」
「…あまり長くてコケたら困るからな」
「だ、大丈夫だってば」
クロードは慣れた手つきでスカートをさばき、整えていく。
「何かあったらすぐ呼べよ」
「うん」
クロードはそのまま城の奥へと入っていった。
司会者が次のプログラムをアナウンスしていると
会場がどよめき始めた。
「ねぇ、アラン様ってヴァイオリンなさるの?」
「知らなかった!」
会場で囁かれる声が舞台袖のレオナの元にも届く。
「…やるつもりねぇって言ったよな…俺は」
するとレオナのすぐ隣にアランがやってきた。
黒シャツの前を少し開けたラフな格好で
顎にヴァイオリンを挟んでいる。
そして弓に松脂を塗りながら
「しかもなんでアンタと…」
そう言って後ろを見やる。
そこにはレオが同じようにヴァイオリンを抱えてニコニコしていた。
「アラン、ここまで来たら諦めようね」
「……」
アランは黙ったままだ。
「アランー、よろしくねー」
ノアは楽譜でぽんっとアランの背中を叩いた。
大きなため息をひとつついて
アランと、その後ろからレオとノアが続いて
舞台に上がっていった。
Program 2
1st Violin:レオ=クロフォード
2nd Violin:アラン=クロフォード
Piano:ノア=レオンハート
Piazzolla「Libertango」
いつもの「のほほん」とした雰囲気を
完全に消した
ノアのピアノが
情熱的な加速度で
夏の夜の空気を切り裂いた。
口元に笑みをたたえているノアだったが
目の色はいつもと違っていた。
(ノア…すご……)
いつも見ているノアとは別人だ。
そして。
レオの弓が宙を舞う。