第10章 Op.10 スタジオリハ
レオナは言葉を返せない。
「好きじゃないんだよね?」
「…」
それには、はいともいいえとも答えられずにいた。
ルイは冷え切った眼差しでレオナを見やる。
「…少なくともクロードはそのはずだ」
「…っ」
言われなくても分かってる。
クロードは好きで抱いてるんじゃないことぐらい
(…そんなのは…抱かれてる私が一番よく…)
「分かってるよ……でも」
息を吸い込み、レオナはひと思いに告げた。
「契約だったとしても、帰る場所と必要としてくれる人がいるのは…私の人生で初めてなの…
だから…それに応えたいだけ」
「…綺麗事だね」
ルイの声色は冷え切っていた。
「必要とされてるって感じられるなら、やりたくないことでもやるなんて、そんな自己犠牲はっきりいってみっともない」
ルイの言葉は鋭く刺さる。
「そう…だね」
レオナは弱々しく笑った。
「ルイ…私、強くなる」
ルイに向けられた笑顔は、頼りない崩れそうな笑顔だった。
「まだまだ…自分が望んでいることさえ何なのかわからなくて…でもとにかく『あの家』には帰りたくなかったから」
自嘲気味に笑ったレオナは俯いて続ける。
「あの家に帰らない方法だったら…何でもよかった…そのためなら…クロードも利用しようと思った」
「…レオナ?」
「抱かれることも、嘘の優しさを見せられるのも、あの家に戻ることに比べたら何もかもマシなの…」
「……」
ルイがふとレオナの腕を掴む。
突然のことに驚き顔を上げる。
「あ…」
そこで初めて
レオナは自分が涙を流していることに気付いた。
「…そんなに、嫌だったの?」
黙ってうなづいたレオナは笑って見せた。
涙がまた頬を伝う。
「だからね…ルイがあの時優勝させてくれて、ほんっとに感謝してるの。ありがとう…」
「…君の歌は素晴らしい。そう思っただけだよ」
ルイはそっと指で涙をぬぐってくれた。
ふいに近くなるルイの顔に
レオナは胸の鼓動が騒ぎ出すのを感じた。
「ルイ…」
ぬぐった指がそのままレオナの顎をとらえると
「………っ!」
…レオナの唇にキスが落とされた。