第10章 Op.10 スタジオリハ
ルイの柔らかい前髪が
そっとレオナの頬を掠めた。
ゆっくりと離れていく唇。
レオナは茫然としていた。
「……ど…して?」
「…ごめん、分からないけど」
自分からしたことなのに
ルイはひどく動揺した様子だった。
「ごめん、忘れて」
「あ、ルイ…」
そう言いかけた時
「あ、レオナさん、ルイ様!」
廊下の角を曲がってケイがやってきた。
急に気恥ずかしさがこみあげてきて
レオナは俯いてしまう。
ルイはすっと立ち上がると
「…疲れたからもう帰る」
「ルイ様、もう帰られますか?じゃあアランさんに連絡しますね」
何も知らないケイはそのまま携帯を取り出し連絡をする。
「…レオナ」
どきり、として、ルイの方を振り返る。
「本番、楽しみにしてる」
ルイは口角を僅かに上げて言った。
その表情はもういつものルイに戻っていた。
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ウィスタリア城下のスタジオ。
サングラスをかけたカインが、ジルと共に入ってくる。
「しかしジルがジャズ弾けるとは意外だな」
「…趣味のレベルですが」
ジルはふっと笑いながら応える。
「なんだ、このメンバーは趣味レベルの集まりかよ」
するとスタジオの中にいた男が応えた。
「おい、俺は趣味レベルじゃなく潜入レベルだ。一緒にすんな」
シドはダブルベースを抱えてチューニングをしている。
「…シド、とてもよく似合ってますね」
「あ?ファッションじゃねーぞ」
「褒め言葉だろうが、素直に受け取れよ」
カインはドラムセットの前に座り、スネアを叩く。
「…てめーは全然似合ってねえな」
「あ?何だシド」
「ジャズなんて叩けんのか?」
カインは鼻で笑った。
「はっ…それは聴いてから言うんだな」
ジルは二人のやり取りを見て心の中で呟く。
(…この二人だから、私が選ばれたのですね)
ノアやルイではこの二人をまとめるのは不可能だ。
「さぁ…今日はレオナさんは来ませんが練習は致しますよ」
ジルは手をぱんぱんっと叩き
ピアノの前に座る。
「さて…お二人共覚悟して下さいね…」
シドとカインは顔を見合わせ、一瞬固まっていた。