第1章 Op.1 原石発掘
しかし、言い方はキツくても一番冷たい印象なのはやはりルイ様だ。
「君の音には何も感じない」
なんのオブラートにも包まれない言葉が
次々に降りかかっている。
(あんなに上手い人たちがああなんだから……)
逆に自分は何を言われるのか
(……もしかしたら何も言われないかも)
言う価値すらなし、みたいな。
「次、レオナさんですからね」
インカムをつけた舞台袖の男性が
小声で声をかけてきた。
「はい」
なぜ冴えない私が
ここに立っているのか。
それにはある理由があった。
レオナは
ウィスタリアの中でも比較的田舎の地域で生まれ育った。
父親は酒癖と女癖が悪く
彼女が幼い頃、出ていってしまった。
母親は一人で働きながら育てることはできなかったため
農家をしている母の実家に身を寄せることになったのだった。
長男一家と祖父母、そして母と自分。
祖母は長男を可愛がっており
出戻りの娘…つまりレオナの母を疎ましく思っていた。
そんな母の娘であるレオナも
当然可愛がられることはなかった。
長男一家には
同い年の女の子と2歳年下の男の子がいたが
自分との扱いの差は歴然としていた。
衣食住は常に贅沢を許されず
どんなに頑張っても
褒められることはなかった。
唯一の味方が、母親だった。
が、その唯一の味方も
レオナが10歳の時に
病によりこの世を去った。
……そこからは
地獄の日々だった。
祖母やいとこたちの「サンドバッグ」でいること
それが
彼女が「生きる」ための唯一の方法だった。
気に入らないことがあると
当たり散らされ
納屋に閉じ込められ
食事を取り上げられた。
それでも何とか生きていられたのは
母親の言葉があったからだ。
一度だけ連れて行ってもらった海岸での散歩。
「あなたの声は素晴らしい。いつか世界中の人を喜ばせ涙させる」
なぜかその言葉だけ
はっきりと覚えており
実際レオナは
幼い頃からよく
歌を歌っていた。
閉じ込められた納屋の中
締め出された夜の畑の真ん中で
いつも、歌だけが
レオナの心を潤してくれた。