第1章 Op.1 原石発掘
鏡の前には
さっきまで映っていた
ダサくて冴えない「スタッフのような女の子」が
ポニーテールに
スカルアイテムでまとめた「ロック調の女の子」に
変身していた。
(すごい…着てきたTシャツとデニムはそのままで…)
「すご……」
「当たり前だ、俺はスタイリストだぞ」
銀髪の男は優しく微笑むと
「あ、忘れてた」
と呟いて
急に至近距離にまで迫ってきた。
「え?」
ダークパープルの瞳が
吐息のかかる距離にまで迫る。
突然のことで
レオナはとっさに目を閉じた。
すると
レオナの唇に
濡れたような感触が広がって………
「……んっ…」
「ん、これでよし」
再び鏡を見ると
……真っ赤なルージュが塗られていた。
レオナは一瞬の出来事に
心臓がどくんと大きく鳴った。
「あ、りがとうございま…す……」
ちょうどその時
先ほど名前を呼んでいた女性スタッフが再び現れる。
「レオナさん!舞台袖移動お願いします!」
「あ、はい!」
すると
頭にぽんっと撫でられる感触が伝わる。
「あ…」
真横に立つ銀髪の男は、レオナを見下ろす。
「レオナっていうんだね」
「はい」
「頑張れよ」
「ありがとうございます………あの」
名前を聞こうとしたのがわかったのか
男はレオナを見下ろして答えた。
「俺はクロード・ブラック。スタイリストだ」
瞳を光らせて、そう答えた。
舞台袖に移動すると
ちょうど音楽部門が始まるところだった。
プロや講師をしている人が演奏したり歌ったりするものの
3人の審査員は一言も褒めず
どんどん落選していった。
レオナは舞台袖からそっと審査員の様子を見た。
(さっきから…一番怖いのがカイン様かな)