第6章 Op.6 急遽
「え?」
レオナが期待の眼差しでルイを見上げた。
その顔を見て、ルイは少しだけ顔を赤らめて呟く。
「…俺は無理」
「あ?お前、初見演奏得意だろうが」
余計なこと言うなよ…と言わんばかりの視線で
ルイはカインをじっと睨む。
レオナは本番が5分前に迫っているのを確認すると
ルイの腕を掴んだ。
「ルイ様…お願いします!助けて下さい…!」
ルイは複雑な表情でレオナを見下ろすと
静かに
「…腕、離して」
そう告げた。
(…やっぱ、駄目だよね…)
レオナは目を伏せて手を離すと
ルイはレオナに向かって手を差し出した。
「え?」
「……楽譜、見せて」
「え、じゃあ……」
「……どうせ最近ずっと歌ってるMemoryでしょ?あの程度なら1分くれれば準備できる」
「は、はい!ありがとうございます!!」
レオナがスタジオへ踵を返そうとすると
ルイは彼女の肩を掴んだ。
「一つだけ条件、いい?」
「え…はい」
レオナは恐る恐る振り返る。
「…様付けと敬語…やめてくれる?」
レオナは少し顔を染めてはにかんだ。
「…はい!」
突然の王位継承者の出演に
スタジオは騒然とし
突然のサプライズ出演に
かえって番組は盛り上がる結果になった。
「ありがとう、ルイ」
「この程度なら、大丈夫。そういえば」
ルイがちらりと
レオナの隣に立つケイに目をやる。
「…君の事務所主催で『夏の音楽祭』をやるらしいね」
「そうです。まだ具体的な話は進めていませんが、そのうちジル様のところへ担当者が打ち合わせに伺うはずです」
「…そう」
ルイはレオナの方をみやる。
「…何か、一緒にできたらいいね。今日みたいに」
ルイは僅かに口角を上げてそう告げた。
初めて見たルイの優しい表情に
レオナは胸の奥が温かくなった。
「…うん。また、ルイのピアノで歌わせて」
黙ってうなづくルイの顔は少し赤いようだった。
「今度は、Memory以外の曲にしてね…聴き飽きた」
そう告げて、ルイはスタジオを後にした。