第6章 Op.6 急遽
「どうしよう…あと15分ですよね…ダメもとで事務所連絡してきますね…」
ケイは携帯電話を持ってスタジオの外へ出た。
(どうしよう…最悪…アカペラ)
いつも外や納屋の中ではアカペラだったけれど…
それがテレビ的にいいのかどうかは正直分からない。
その間にも生放送は続いており
女性アナウンサーとコメンテーターが、ウィスタリアの情報やニュースの話をしている。
カメラの向いていないスタジオのセットには
ピアノやマイクがスタンバイされている。
「あ、何やってんだお前」
その時
突然、後ろから肩を叩かれた。
振り向くと
そこには久方ぶりに会う人物の姿があった。
「カ、カイン様!」
「…様つけんのやめろ、気持ちわりぃ」
カインは眉根を寄せて見下ろしてくる。
「え、ここで何してるの?」
「あ?隣のスタジオで3人でインタビュー答えてた」
「3人……って、あの3人?!」
レオナは思わずカインの腕を掴んだ。
カインは少し身じろぎして答える。
「あ、ああそうだけど」
「ノアいる?お願い!伴奏頼みたい!!」
「あ?どういうことだ」
レオナはピアニスト不在の事情を説明した。
「へぇ、そうか…」
カインはスタジオから廊下へ出ると
「おい、ノアーまだいるかー?」
と、大きな声で声をかけた。
返答はない。
「ノーアー」
すると、廊下の曲がり角から姿を現したのは
ルイだった。
「あ、ルイ」
ルイは淡々と答える。
「…ノアならもう帰ったけど」
「ああ?はええな…」
カインは後ろに立つレオナに
「だってよ。残念だったな」
と、答えた。
「?誰…?」
ルイは、カインの陰に隠れていたレオナの姿が見えず
すっと覗き込む。
「あ、ルイ様…」
「……君は」
レオナはしばらくぶりに会うルイの姿に少しだけ緊張した面持ちだった。
「…ノアに何の用?」
ルイの言葉は相変わらず冷たい口ぶりだ。
「あ、あの…ピアニストが急にいなくて、それで伴奏を頼めないかと思って…」
「…そう」
そっけない返答にレオナの胸がわずかにきしんだ。
するとカインがルイの腕を小突く。
「そう、じゃなくて…やってやれよ、ルイ」