第19章 Op.19 事故
「……レオナ…」
レオナは少し痩せたように見えたが
思っていたよりは顔色も良く見えた。
ほとんど化粧をしていない顔は
あどけなさを残す少女のようだった。
少し伸びた髪が乱れている。
今まで眠っていたのかもしれない。
レオナはルイの顔を見た瞬間
少し驚いたようだったが
ふっと微笑んだ。
「…どこが悪いの?大丈夫?」
ルイはレオナのベッドに腰掛け、
ゆっくり顔を覗き込んだ。
「………」
レオナは少し瞳を揺らし、曖昧に笑うと
俯いてしまう。
「…どこか、痛むの?」
俯いたまま、レオナは首を横に振る。
「どう…したの?」
明らかに様子のおかしいレオナの髪に
ルイはそっと触れて撫でる。
「……レオナ?」
かすかに震えるレオナに気付いたルイは
彼女の目から落ちた涙がシーツに染みをつけていくのを見つけると
その小さくなった肩をそっと抱き寄せた。
「……どうして泣くの?」
「……っ……っ」
肩口で泣くレオナの様子に
ルイははっとなった。
(……まさか)
「レオナ」
(それが本当だとしたら…)
レオナにとってそれは
一番、酷だ。
ルイは眉根を寄せ
レオナの髪に指を差し入れ
彼女の頭をかき抱き
そのままきつく抱きしめた。
「……声、出ないんだね…」
ルイの背中にまわされた腕が
それにこたえるかのように
弱々しく力が込められていった。
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「失声症…」
病院のロビーでクロードとルイは横に並びながら話をしていた。
「…心因性で発症するもので、声帯の機能は異常なしだ。投薬と休養でストレスが改善されれば…おそらく治る」
「…どうしてこんな風になるまで休ませなかったの」
「あいつの性格でな…必要とされると過剰に頑張りすぎちまう。外国の公演で多くのファンが待っているのを目の当たりにして…無理していたんだろうな」
「それって…彼女が頑張りすぎてることなんて、もっともっと前から分かってたことだろ?!」
滅多に声を荒げることのないルイが声を上げた。
「………もちろんだ」
クロードは静かに答えた。