第19章 Op.19 事故
声の主はシドだった。
「ああ、シド…まさかもう分かったのですか」
「あ?俺を誰だと思ってる」
シドは談話室を見渡し
ルイと目を合わせるとふっと鼻で笑った。
「ジルからの依頼だったが…この泣き虫が一番欲しがりそうな情報だな」
「…何の話?」
ルイは苛立ったように問う。
ジルがすかさず間に入った。
「ルイ…実は速報を受けてすぐシドに調査を依頼しました」
「え?」
ルイの目が見開かれ
シドに皆の目が向けられた。
「あ?何なんだよ、お前ら…全員情報料払ってもらうか」
「いいから早く教えろ」
「いいから早く教えて」
一同から一斉に言われ、シドは両手をあげる。
「わかったよ」
シドは一瞬ジルの方へ視線を投げ
「結論から言うと…」
ジルのうなづきを確認して言葉を続けた。
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いつもより景色の飛んでいく速度が速い。
はやる胸に合わせてアクセルが踏みこまれる。
落ち着こうと思っても
土台無理な話だった。
ルイの頭の中では
先ほどのシドからの言葉が繰り返し響いていた。
「…レオナが事故に遭ったというニュースは、ツアー中止を世間に納得させるための嘘だ」
「…なんだって?」
カインが眉根を寄せる。
ルイも同様だった。
「……しかも、あいつは先週から…ウィスタリアにいる」
「シド、それはどういうことですか」
ジルの冷静な声に、僅かな動揺が滲んでいる。
「はっきりした原因はわからないが、おそらく精神的な何かが原因で、今とてもあいつは歌える状態じゃないらしい。
で、今はウィスタリアの病院に入院、ケイが事後処理で北米に残り、クロードが事務所と今後の交渉をしている」
「……レオナちゃん、いったいどうなってるんだ」
「病状は完全に伏せられていて分からないが、ばれずに帰国できるくらいは動ける、ってことだな」
シドはそう告げると
ふっとため息をついて、ルイの前に立つ。
「おい、泣き虫…なにぼうっと座ってやがる」
「……何?」
はっとなって、ルイはシドの挑発を受けようと目線を上げた。
シドは一枚の紙切れを渡す。
「……レオナの入院先だ。名前は伏せているがそこにいる」