第2章 Op.2 原石研磨
「あれえ?今日一番の『話題の人』がいないねー?」
ノアは金髪をくしゃっとさせて、壁際に立つルイの顔を覗き込んだ。
「…」
ルイは黙ってお酒を飲んでいる。
「…俺はあの子の歌、ここでもう一回聞きたかったけどなー」
「…あの服じゃ、来れないんじゃないの」
うっとうしそうにルイが答えた。
会場に
今日一番あの番組を騒がせた人物の姿はなかった。
無意識のうちに会場全体を目で探していた自分自身に
ルイは少し苛立っていた。
(…バカバカしい)
そろそろこの場を去ろうかと
もたれかかった壁から背を離そうと身を起こした
まさにその時だった。
がたん
会場の扉が開き
最初に現れたクロードが
後ろ手に誰かをエスコートして入ってきた。
そしてそのまま後ろにいる人物を
中へ導いた。
「さぁ、どうぞ」
「……」
会場にいる全員が
クロードにエスコートされた人物に
釘づけになった。
「あれは」
ぱっと見では
昼間の収録で
会場を沸かせた「ださい」あの人と
同一人物だとは思えなかった。
ハーフアップに綺麗にまとまられた髪
下ろされたところは綺麗に巻かれてゆるく波打つ。
耳と胸元には
スワロフスキークリスタルのアクセサリーが光り
思いのほか白い彼女の鎖骨を
際立たせているように見えた。
その白い肌に溶け込みそうな
淡いスノーブルーのドレスは
ところどころにラメがあしらわれ
会場の照明できらきらと輝いている。
整った眉に
長いまつげは影を落とし
ローズピンクにつやめいた唇は
不安そうに僅かに震えていた。
「あ…あの…クロード?」
「…遅れてすいません」
レオナに見惚れる会場の全ての人間に向かって
クロードはにやりと笑ってそう言った。
クロードの言葉に我に返った人々は
そのまま思い思いの方へ向き直った。
クロードはレオナにそっと耳打ちする。
「大丈夫だ、俺がついててやる…」
「え?」
レオナはそこで初めて
クロードは「ただのスタイリスト」じゃない、ということを悟った。
「…お疲れ」
そんな二人に声を掛ける者がいた。