第1章 はじめましての挨拶を。
こんばんはと言ったその声は屈託がなくて、
友人に挨拶するくらいの優しい響きだった。
「ええ。良い夜ですね。」
ポーカーフェイス。
忘れるな。
つとめて、怪盗キッドのまま返事をする。
ステンドグラスに照らされてまま男はたっている。
手には、ロゼワインと同じ色のビッグジュエル。
「予告状と一緒にワインを送ったんだって?
よく買えたね。それとも・・だれかに買ってきてもらった?」
「ワインがお好きでしたか?」
向こうから俺の顔は逆光になっているはず・・。
それにモノクルもハットも外してはいない。
俺が未成年だとあたりをつけたのかそれともはったりか。
そんな俺に対して相手は素顔をさらしている。
20代後半、といったところか黒い髪がコートと同じ色をして交じっている。
「キミが・・・」
!?
「こうやって宝石を月にかざすのが好きでね。
調べてみたんだけど。
まー、月に宝石ってだけでヒット件数すごくて。
調べたかいはあったかな?
都市伝説レベルだけど、
ねぇ・・・・・パンドラって知ってる?」
「おまえっ!あいつらの仲間か!!」
キッドの俺がはがれ落ちる。
まるで俺のようにそいつは月に宝石をかざしてのぞき込む。
「あいつら?
ああ、たまにキッドの事件で発砲とかあるけどその人たちのことかな?
キミは銃なんて使わないもんね。」
からからと軽快に笑うそいつ、よく見れば瞳が紫色なことに気がついた。
「オレはマジックが好きでね。見る方だけど。
特に、黒羽盗一サンの大ファンでさ。キミが使ったあるマジック、黒羽盗一サンにそっくりな動きだった。」
世間話でもしているかのように、でも手ではダイアモンドを遊ばせて。
「きっかけは・・ちょっと気になったんだよ、
黒羽盗一サンの事故、再開された怪盗キッドの行動、それと昔の日付けの怪盗キッドの写真。
偶然撮影できたんだろうけどマイナーな雑誌だったから残ってたんだろうね、
こうやって月にかざしてたよ。他の人は加工した今のキミの写真だって思ってるみたい。」
ドクンドクンとこめかみの辺りから音がする。
「教えてあげようか?キミの願いの叶え方。」
甘い声色で。
夜に溶け込むように。
「だから、あそぼーよ。
俺は怪盗ナイト。
これからよろしく、またね。」