第2章 向日葵を愛した人へ。
足下の群衆からひときわ聞こえる声。
邪魔をするのは野暮ってもんだよ、中森けーぶ。
「かわいい彼女は夢の中・・・
逢瀬は邪魔するもんじゃない。
今ごろ、どこにいるんだろうねぇ。」
夢の中でなら、会えるよね。
「お嬢さま、忘れ物です。」
清助さんが握っているのは、
「髪飾り・・私の、お気に入りの・・・」
細長い、薄いさくら色の飾り紐。
嬉しくて、嬉しくて、いつも髪を結うのはそのさくら色。
「・・どうしても、これをお返ししたくて。
やっと、お返しできる。よかった。
とても似合っていらっしゃった。」
目の前にいる人への想いも、
その髪飾りを大切にする気持ちも、
向日葵と同じ。
ずっと、ずっとアナタのことだけ・・!
「お嬢さま、ずっと生きいてくだすって
ありがとうございます。
たくさんの向日葵もお嬢さまのおかげで見ることができました。
先生の夢が叶う瞬間にもお嬢さまはいつも立ちあってくだすった。
感謝しても、しきれねぇ。」
そう言って持ってなかったはずの帽子を持って深々とお辞儀をする。
「・・・こちらこそ・・ありがとうございます。
東さん。私、子供達が喜んでくれる姿が好きなの。
まるで向日葵みたいに笑ってくれるんです。
見て、いらっしゃいましたか?」
「はい。もちろん。」
「清助さん、私・・貴方と一緒にいくのに随分時間がかかると思うの。
それでも、構わない?一緒に、向日葵を見ませんか?
私のまわりに遊びに来てくれる向日葵も、
美術館にもまた向日葵を見に行くわ。」
「そりゃあ、いい。きっと綺麗だ。
見たいです。たくさんの向日葵を。見せてくれますか?」
向日葵が見たいと答えたあの人は子供みたいな笑い方。
はいと答えた私の声はもう、昔の声ではなかったけれど、
手の中にはくすんださくら色がのっている。
ありがとう、本当にお気に入りだったの。
『似合ってますよ、本当ですって!!』
『そうね、向日葵と同じ色のほうがよかった?』
『いいえ。いつか、向日葵の飾られた美術館にさくらが咲く時代になりますよ。』